【ジャンル】 伝説
【カテゴリ】 大蛇
【 地 図 】 福井県敦賀市山
【其の他 】

黒河国有林地帯
現在は工事中のため、車両通行止め

【 概 要 】
其の一.
黒河山には周囲20町余りの芦谷の池ヶ原という池があり、そこには大蛇が棲みついていた。
年を経た大蛇は昇天したいと思っていたが、それには人の体を借りなければいけないので、ずっと人が来るのを待っていた。
ある時、山村の源兵衛という家の老婆が友達と二人で山菜採りに出かけた。
昼になり、池ヶ原で昼食をとり、老婆は池に水を飲みに降りた。
蛇はその機を逃さず、素早く小魚に化け、老婆の体に入り込んだ。すると、見る見るうちに老婆の頭から12本の角が生じた。
老婆は水に映る姿に驚き悲しみ、傍にいた友人に、
「私はすでにこのような姿になってしまった。最早、村に帰ることはできない。その代わり、干ばつが起きても我が村の水だけは枯れないようにしましょう。」と言い残し、池の中に消えた。
それから数十年後のある年、大洪水があり、大蛇は天に昇るため雨滝谷を出ようとしたが、滝から落ち、腰を打ちつけ倒れた。
大蛇の体からは血が川のように流れ続け、七日七晩絶えることがなかった。そして、とうとう大蛇は昇天できないまま死んだ。

其の二.
その昔、池ヶ原には龍が棲みついていた。
ある時、山村の治朗左衛門という炭焼きが、池ヶ原に炭を焼きに行った。
持参の弁当を食べていたが、物足らず、池の魚を獲って焼いて食べた。すると間もなく、体が焼けるような感じに襲われた。
堪らんと池の中に入ると、忽ち姿は龍になり、そのまま深く沈んでいった。
ある時、池の水が枯れ、住めなくなった龍は昇天しようと池の外に出たが、途中で落ちて死んだ。
滝の水は真っ赤に染まったという。

其の三.
雨谷の奥、黒河川の上流の口無谷に「鬼ヶ瀧」という滝がある、この一帯を「雨タタキ」という。
かつてその滝には大蛇が棲んでおり、村人は恐れていたが、或年の正月山法師が来て、村人の話を聞き、これを封ずるべく藁で大蛇の大模型を作り、祈祷を行ったところ、大蛇が出現し、この瀧に落ち首骨を骨折して死んだ。
その為、七日間血が黒々と河をなして流れたので、黒河川と呼ぶようになったということである。

其の四.
その昔、鬼ヶ瀧には雌雄の蛇が棲んでいた。雄の方は、元山村の人間で、雌蛇に見込まれて蛇となった。
或年の豪雨、鬼ヶ瀧から雌蛇が落下し、腰骨を折って死んだ。
そのため、河の水は七日間黒い血が流れていたという。

其の五.
大蛇の死んだ日は「カンジツ」という。意味は分かっていないが、その日は陰暦の十二月二十八日だという。
その後七日間は川水に毒があるため、川沿いの村では正月餅をつくことはなかった。

『敦賀郡神社誌』、『越前若狭の伝説』から要約

【 雑 感 】
山(集落名)の黒河川に残る大蛇伝説です。

黒河川はこの山村のさらに奥、乗鞍岳を源流とし、下流で笙ノ川と合流している。
清く澄んだ川で、夏には地元の子供達が遊びに来たり、釣客が渓流釣りを行ったりしている。

写真は山村の南端辺りにある地元民の遊び場である。
伝説で上げられている「池ヶ原」、「口無谷」は写真の場所よりかなり上流の方である。

私がまだ中坊だった頃、夏になると黒河出身の友達数人とよく滝ジャンに行っていた。滝ジャンとは読んで字の如く滝からジャンプするというパプアニューギニア辺りの伝統儀礼である。写真の滝からもよく飛び込んだが、底が浅く、足がついて危険だった。

実はこの頃に一度、さらに奥まで行ってみようと言うことになり、チャリで奥地に向かったことがある。いくつか面白そうな滝を超えて、ずんずん奥地に進んでいくと、道幅はどんどん狭くなり、途中からは舗装さえされていなかった。流石に不安になり、引き返した。
当時の記憶なので定かではないが、多分写真の所から数キロ以上は進んだじゃないだろうか?その時は、池ヶ原らしきものは見つけることができなかった。
ネットで調べてみると関西電力のサイトに分かりやすい説明があった。どうやらハイキングコースで、しかも上級者向けらしい。私には無理だなーとそうそうに諦めた。

この伝説も複数の類話が存在している。共通点は、蛇が滝から落ちて死ぬこと、七日間血が黒々と流れ続け、水が飲めなくなるということ。古代史学的に捉えると、過去に起きた何らかの事象を表しているのではないかとも考えられる。
大蛇と川がセットの場合、よく結び付けられる説として、干ばつ・洪水などの天災、あるいは大規模治水事業などが挙げられる。ヤマタノオロチなどはこれではないかと言われている。

しかし、ヤマタノオロチと違うのは、荒ぶる神(ここでは洪水や氾濫)としての説明が少ないこと、供儀(人身御供や人柱)について書かれていないこと、伝説其の三を除けば退治ではなく事故死であることなどから見て、治水や氾濫に関係した事なのか疑問である。
最初に挙げた共通点がキーだとは思うが、素人なので何とも分からない。
蛇とは?毒とは?七日の意味は?なぜ死んだか?こういったことを真剣に研究してみたら楽しいだろうな。
もし学生の頃に戻れるなら、古代史や民俗学、文化人類学等を学んでみたい。。。

 

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